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----メルマガ(オリジナル小説)「郵便物」の部屋----
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過去の作品
郵便物
理由のわからない悪戯に苛まされる、一人暮らしの女性。
加害者は誰なのか。郵便受けから始まる恐怖です。
 

視線

週3回の家庭教師の日が、今の僕にとって唯一の楽しみだ。
小さな建設業の社長をしている親父の頼みで、取引先の娘の勉強を見ているのだが、
まだ13歳と少女の百合は、どこか色気のあるその表情やしぐさにうっとりするほど美しい。
汚れを知らないようであり、しかし、聡明な瞳は世の中をシビアに見ているようでもある。
もちろん、僕が彼女に好意を寄せていることは言っていない。
今は話すつもりもない。
もし、告白したとしても20歳の僕は彼女からしてみれば、
ただのロリコンにしか過ぎず
嫌われるだけだというのは百も承知だ。
家庭教師と生徒という関係だけで、そして、たった週3日2時間の楽しみで僕は十分癒されている。

そして、今日は楽しみにしている家庭教師の日だ。
僕は先に部屋に通されて百合と父親との話が終わるのを待っている。
おとなしく机に座り、周りを見渡す。
百合の部屋は、少女らしくないさっぱりと整頓されていてどこか生活観のない空間だ。
一つのぬいぐるみやインテリアもなく、ただ海のフォトフレームが一つ
整理された本棚の上に乗っている。
今日は何から勉強しようか。
彼女は生徒としてもよく出来るし、集中力もある。
無駄口も言わないので(僕としてはちょっと寂しいが)
教えていて何か悩むこともない。
学校の勉強もできるようで、僕のようにちょっといいところの(謙遜だけど)
学校に通う予定で今は受験の準備をしているといったところだ。
本当に非の打ち所がない。
そこも魅力だ。

百合が部屋に入ってきた。
時々あるのだが、顔色が優れない。
今日は父親と喧嘩でもしたのだろうか。やせて細い身体がいつもより細く見える。
席に着き、僕が用意した英語の参考書とプリントを黙って見つめ鉛筆を取る彼女。
しばらく、僕の手作りの復習のプリントをすらすらと解いていた。
そして、10分ほどで終わる。
「終わりました」百合との今日初めての会話。
「採点するから、ちょっと参考書を読んでてくれるかな。」
僕は彼女のきれいな文字と答えを合わせていく。間違えは一つだった。
「ここの訳だけだね。間違えているのは。」
「すみません。うっかりしていました。」伏目がちにプリントを受け取った彼女の手が
小刻みに震えていた。まるでウサギや小動物のように。
普段は聞かないがどうしても気になって僕は「今日は元気がないね」ときいた。
「そうですか・・いつもと同じです・・・」
彼女の瞳は明らかに潤んでいた。
「どうしたの?やっぱり変だよ。大丈夫?休もうか?」
「大丈夫です。でも、今日は勉強より雑談しませんか?」
突然の申し入れに驚いた。彼女の口からそんなことを言い出すなんて
「えっ」僕の驚いた表情に我に返ったように顔を赤らめ下を向く彼女。
「すみません。」
「いや、集中力のないときにやってもはかどらないし、今日くらいは雑談しようか。」
僕は心の動揺と歓喜を隠せず、少し早口で慰めるように言った。
「ありがとうございます。」そうつぶやいた百合の言葉を最後に沈黙が部屋に流れた。
「何を話そうか・・・」気まずい空気を打破しようと僕が話し始めたとき、
「先生は彼女とかいるんですか」ときいた。
「え」予想外の質問に動揺する。
「好きな人とか」そして間を空けずに聞き足した。
『それは君だよ』心の中ではつぶやいたがもちろん声にはならなかった。
「うーん、あまり興味ないから」強がるようにつぶやく僕を、
百合は見透かしたようにクスリと 笑ったような気がした。
「何かおかしい・・?」心を見透かされたように思え尋ねた。
「ううん、もてそうだから」首を小さく振り笑顔のまま言い返す。
「全然だよ」そっけないフリをした。
すると彼女はがっかりしたように肩を落とし、
「私モテル男の人が好きみたい・・」百合は上目遣いに誘うように僕をみた。
「そうなんだ。」動悸が強くなる。何か期待されているのかと興奮をし始めた。
が、そんな僕を肩透かしするように、
「ストーカーされてる人とかってもてるんだろうね」と呟いた。
「そうかな」何が言いたいのかわからない彼女の心を読もうと僕は必死になった。
「先生はストーカーとかされてない?知らない人とかに」
僕はただ首を振った。
「例えば、先生コンビニでもバイトしてるんでしょ?じゃあ、そこに毎日来る女の人とか」
そう質問されて、思い当たる人が一人いた。
来る時間はバラバラだが、日に2回来ることもある女性だ。
「うーん、毎日来る人はいるけど」その女性を思い浮かべて答えた。
「ストーカーだったりして」子悪魔のような微笑を浮かべる。
「そうかな」彼女の期待に応えるべくそう言った。
「そうかもよ。他のバイトの人にも聞いてみたら?もしそのほかの時間のバイトの人が
きてないっていったら、先生を狙っているかもよ」まさかと小声で否定した。
が、実際そうであるなら、彼女の好奇心の応えられるかもしれないと思っていた。

バイト先へのシフトはバラバラで入れてある。
大学の講義のない日は、他の子のシフトに入ったりしているからだ。
ここまでするのは、親に金銭的な負担をかけたくないという面と
2年生まではお金を貯め、3年からは目指す目標へ向かい学業に
もっと身を入れるつもりでもあったからだ。
他にいいバイト先を探したが、何より家から近いこの場所で馴染んでいたせいもあり、愛
着もあった。

その日のバイトは平日午後7時から4時からのバイトの子と重なるようにシフトに入った。
時間が9時になり4時からのシフトの子と入れ替わりに9時からのバイトの子が来た。
ここのバイトは24時間のシフトで計11人で入れ替わっている。
店長は昼間監視カメラと売り上げの確認、仕入れの確認などで4時間ほどいるだけで、あ
とは僕らバイトが店を見ていた。
9時で上がる斉藤が入れ替わりの橋本と少し談笑しているとき、百合に話した例の常連の
女性がやってきた。
ここのバイトでは2年間必ず見る客だ。
見た目はおとなしそうで、いつも一人でやってくる。
僕は彼女に言われたことを思い出し、斉藤と橋本に女性のことを尋ねた。
「あの女の人、毎日くるよな」あくまで自然に僕は切り出した。
二人はちらっと女性を見ると興味なさそうに斉藤が
「そうか?」と言った。
「ああ、たまに見るね」橋本も全く興味はなさそうにエプロンを外し始めている。
「毎日きてるじゃん。」もう一度問いかける。
「タイプなの?」怪訝そうな顔の斉藤は振り向きもせずにだるそうに言った。
「じゃないけど・・・・・」やはり勘違いなのだろうか。
そう思ったとき、少し間をおいて橋本が、僕を見ながら
「俺らが見てなくて毎日来るってことは、洋介さん目当てなんじゃないですか」
と少し頭を揺らし思いついたように僕に言った。
その言葉は僕を深い沼の入り口だった。
橋本の言葉を思い巡らせながら、自己暗示にかかっていくような気がした。
はやり僕目当てなのだろうか・・・。僕はこの日から女性を観察することにした。

時間帯、曜日はバラバラで確かに僕がいる時間にいつもきている。
買っていく品数からみると一人暮らしだろうということがわかった。

ある日、その女の人が携帯で話しながら店に入ってきた。
会話に耳をそばだててしまう。
すると僕の方をちらっとみながら
「合コン?いかないよ。今興味ないし。年下とかくるなら話は違うけど・・」
そういいながら僕の方をちらちら見ている。
僕に気があるんだろ。
そう思い、なんだか優越感と期待が入り混じったそんな興奮を覚えていた。

家庭教師の日、この前のときのように談笑もなく2時間授業は進んでいた。
僕はストーカーの話をしたくてたまらないかった。
時間が終わりに近き教科書をしまい始めたそのとき、百合のほうから
「先生、この前の話の女の人やっぱり先生目当てでした?」
と聞いてきてくれた。
僕は待っていました。と心の中では思ったが、
「ああ、他のバイトの人とかも言ってたし、最近ちょっと相手から接触もあったから」
そう彼女を喜ばせるためあえて誇張して伝えた。
彼女はとても興味を持ったように僕を見つめ
「じゃあ、やっぱりストーカーとかなんですか?」と声を弾ませた。
「うん、多分。直接何かするって程ではないけど」僕は言葉を濁した断定はできないからだ。
「でも、それって直接何かされてからじゃあ遅くないですか?」
「なんで?」
「だって、刺されたりとか結構あるじゃないですか。先生に気がないならちゃんと相手の
こと調べて、やられる前にやらないと・・・」小首を傾げ不機嫌そうにいう。
「うーん、何かあってからでも大丈夫じゃない?相手は女性だし。」そう、特に何かされ
たわけでもないし、この先するとは限らない。
「そうですか・・・」百合は不満そうだった。
「どうしたの」
「最近、友達がストーカーされて学校こなくなって・・・。先生が家庭教師辞めたら・・・」
下唇を噛んで俯く百合はさっきとは違い落ち込んでいるように見えた。
「それはないよ。」励ますようにいう。
「絶対ってはいえないじゃないですか。その女性ストーカーに何かしないと。相手がわ
かっているならつきまとうのをやめさせるくらいできそうじゃないです?」
少し怒ったように興奮気味に反論した。百合らしくはなかった。
「・・・・例えば?」
「ちょっと手の込んだいたずらをするとか・・・」
百合は黒目を右上に逸らし考えるような表情でつぶやいた。
「いたずら・・・・・」何もしてない相手にそれは躊躇しかねる。
が、そんな僕の気持ちはお構いなしに百合は話を続けていく。
「自分が相手に毎日つけまわされて嫌だってことを知らせるんですよ」
百合の中で、は僕はもう相手に何かされることが、決定されているようだ。
「・・・・・・・・・・どういう風な?」聞いてしまうとヤラザル得ないだろう。確信し
ていたのに彼女の声と興味をそそりたくて聞いてしまう。
「郵便物に何か変なものを入れておくとか・・・」小声ではあったが、それは僕にそうし
ろとおねだりしているような雰囲気でもあった。
「それ犯罪じゃない?」疑問系で聞き返してはいるが、僕自身わかっていた。
それは間違いなく犯罪だって事。
しかし、百合はそんな僕の冷静な疑問をつっぱね、尚も執拗に食い下がった。
「だって、相手だって犯罪じゃないですか。ストーカーなんて。
絶対やるべきですよ。
相手だって嫌がられてるってわかれば、これ以上近づかないかもしれないし。
・・・それに、ちょっと悪戯するくらい・・・捕まりっこないですよ。」
「そうだけど」百合は鉛筆をくるくる指で回しながら横目で僕を見た。
百合の瞳は「そうしろ」と言っていた。これは命令だった。
百合の気をひくために。
やらなければいけない命令だった。

翌日のバイトは夕方7時からだった。
今日、あの女性がきたら・・・。
いや、犯罪だ。確証もなくただの常連をストーカーにしたててどうする。
でも・・・百合はきっと進展を待っているんだ。彼女の期待に答えもっと近づきたい。

女性は9時前にやってきた。
いつものように雑誌をみて惣菜コーナーで物色し。そしてカバンから明細票を取り出し
た。
僕のレジの前に立つ。
「これもお願いします。」それは携帯電話の請求書と家の電話の請求書だった。

「あの、これ当たると旅券もらえるアンケートなんですけど・・協力してもらえません
か」
震える声と体をごまかしながら僕はアンケート用紙を差し出した。
「簡単に記入できるんで・・・」
女性は少し怪訝そうな顔をしたが
「はい。」と素直にペンと紙を受け取りレジを精算する横で書いていく。
「512円になります。」僕がいうのと同時に彼女も書き終わったらしく。
「はい。」と顔を上げた。
アンケート用紙にペンを置き、財布から1000円と2円を出した。
「アンケートありがとうございました」
僕がそういうと、少し疲れたように微笑んで
「当たるといいな・・・・一緒に行く人いないんですけどね。」
と小さな声でつぶやいて店を後にした。
これで、電話番号、住所、携帯電話の番号、・・・そして僕の作ったアンケートで携帯の
アドレスを手に入れることができた。

名前は「優子」近所に住んでいる。
しかし、彼女は僕に本当に好意があるのだろうか・・・。
いや、あるはず。じゃないと毎日お店にこないだろう・・・。

そう思い込むことで彼女の身辺の情報を集めたことを納得させた。
家庭教師は明日。どうにか・・・百合を満足させ、犯罪とわからないようないたずらはないだろうか。

次の日の午後6時。
百合の家に向かいながら僕は「優子」の家の前を通った。
ビニール袋に濡らした新聞紙、そして水筒には水。
「優子」の部屋番号を確認するとすばやく水をかけた。
そして新聞紙を玄関前にばら撒いた。
最初は様子を見るためにあえて意味のない行動をとってみたのだ。

逃げるように立ち去る。

してはいけないことをした。
罪悪感。そして・・・。やってしまった後悔と興奮。
もう、戻ることはできない。
誰かに見られたのでは・・という不安もあり、パニックに陥りながらもどこかで百合の気
を引けるという期待も膨らんでいた。

家庭教師に行くと百合は案の定最初から期待していた話題を振ってきた。
「先生、何か進展ありました。」僕の顔を見るなり開口一番の言葉はそれだった。
「ああ・・一応」もったいぶった口調で僕は
「郵便ポストに水かけておいたよ」と言った。百合の反応は予想外のものだった。

「それだけ?」期待はずれといった口調でプリントを手に取り鉛筆を引き出しからだした。
「どうして・・・」
プリントに視線を向けながら突き放すように、
「それだけだと、悪戯っていうより事故って感じじゃないですか。近づくなってメール送るとかそれを毎日続けるならわかるけど」と言った。
「でも・・・これ以上は」
百合の仕草や声からは『なにそれ?』というような軽蔑と不満がアリアリと見て取れた。
「ストーカーを辞めさせるにはそれぐらいじゃないといけないんじゃないですか。」
そして、横目で僕を見る瞳は、『次はもっと楽しませてよ』という暗黙の命令を発信していた。
僕はただ頷くしかなかった。話を終え授業を始めても、もはや百合は百合ではなかった。
僕の司令官となっていたんだ。

翌日、バイト先に行く前に昨日と同じように「優子」のポストに水をかけた。
もう後戻りはできない。僕は百合という人間に支配されていた。
「優子」は何もしらない素振でコンビニにやってきた。

僕の気持ちもしらないで。
コンビニに顔を出さなければ、それとも相手からの何か接触があればここで終えることが
出来るのに・・・そう思うと「優子」にこれまでもない怒りを感じた。
僕は従業員倉庫へ身を隠し、カバンからモバイルを取り出し登録しておいた「優子」のア
ドレスへメールを送った。

すぐにレジに立ち様子を伺う。
逃げるように出て行く「優子」。スパム対策はしてないようだ。
これで・・・。

しかし、翌日も「優子」はやってきた。
百合に事成り行きはすべて報告している。
期待に答え始めているといった感じだろうか。
司令官百合は、まだ終わりを許してはくれない。

バイトが入ってないときも「優子」のマンションへ嫌がらせをしていた2週間目頃
家庭教師の時間。最初のときほど意見を言わなくなっていた百合が、
「先生、もう、メールとか水かけるのとか効果なくないですか。」
と切り出した。
「そうかな」そろそろ百合から新しい指令がくることは予想していた。
百合は薄い唇を前に突き出して、右手のペンで螺旋を書きながら
「だって相手、まだ、コンビニ来るんですよね。」と言った。
「まあ、そうだけど・・・。」
百合はうーんと唸りながら、長いまつげの瞳を2回瞬きさせ僕を見た。
「そろそろ、次の展開で勝負したらどうです。電話するとか脅迫の手紙を置くとか」
瞳は。そうしろと告げていた。
新しい展開を期待している瞳だった・・・・。

僕はゴミ箱からゴキブリの死骸をビニールでつかみ、死ねと書いたチラシにくるんでポス
トへ入れた。
しかし、「優子」は翌日もやってきた。
僕は気づいてないのか、それともそんな脅しに屈しない態度をみせているのか
どっちなのか知りたくなった。
いつもはしない会釈を相手の目を見て微笑みながらしてみた。
何か反応して欲しい。
気づいていて欲しい。そして、何かアクションをして欲しいんだ。
そう、できれば僕が悪戯の犯人であることを知っているリアクションでも、行為を持って
いるリアクションでも何でもいい。

しかし、「優子」は無視をした。
何してるのと言わんばかりで僕を一瞬見ただけで、雑誌コーナーに目線を映した。


僕の中で何かが弾けるのを感じた。
否定された気がした、そして、僕のやっている行動の無意味さを嘲るように感じた。
眼に物を見せてやる。
深い憎悪がふつふつと湧き上がってくるのを抑えることができなくなっていた。
僕は奥へいくと壁に手をあてて、胸を押さえた。
そうしていないとおかしくなりそうだった。
気分が悪い。
『最後のフィナーレだ』先程の僕の決意をかき消して、
「優子」への最後の悪戯をする覚悟を固めた。

次の日、「優子」がマンションを出て行くのを確認すると
、家の留守電に無言電話を入れた。
夕方前には直接メッセージを吹き込んでやった。
もうこれで僕を馬鹿にできないはずだ。
満足していた。
これで、今日僕がバイトを辞めればあとはしばらくすると日常に戻れる。
そう、これでラストだ。

僕は、バイトに向かうと店長に電話し
「父の家業を急遽手伝わないといけなくなったので今日限りで辞める」と宣言した。
店長は驚きうろたえていたが、そんなことは僕には関係ない。
百合にだってちゃんと説明できる。
もう、「優子」にだって会うことはないだろう。
最後に僕を無視した罰だ。
心は浮き足だっていた。

新刊の雑誌を丁寧に並べ終え、今はバイトの終わる時間だけを気にしていた。
あと30分もすればタイムカードを押して家に帰る。
ここのバイトは名残惜しいが、家庭教師から得る収入もあるし
貯金でちょっとまかなってころあいを見ながらいいバイト先を探せばいい。
空になったダンボールをもってスタッフ用で入り口に向かうと、
自動ドアの開く気配がした。
「いらっしゃいませ」そういいながら目をやると、
そこには「優子」とその横に親しそうにする男がいた。
一瞬にして目の前が真っ暗になる。
一体どういうわけだ。
昨日の無視、今日の僕の電話、そして今。
今までの僕のやってきたこと。
なんで男と二人できたんだ。

『あてつけか』、『復讐』か。
すばやく、奥に入るとモバイルを取り出し携帯に接続する。
『ふざけんな。俺になんのつもりだ』メッセージを打ち込んでメールを送信する。
そして冷静を装いレジにたった。
案の定というか当たり前に「優子」は携帯を取り出した。
しばらく俯きまわりを確認する。
『あと20分。俺の逃げ切りだ』すぐにでも飛び出し自宅に帰りたい衝動を
必死にこらえた。
『もうすぐだ、あとちょっと。あとちょっと。』
そう思っている僕のところへ、明らかに僕に視線を定めながら近づいてきた。
足取りはゆっくりとスローモーションに見えた。
僕の目の前にピタリととまる、その手にはさっき僕がメールを送ったであろう携帯が
しっかり握られていた。そして何かを言いかけた。

気がつくとすごい音がして「優子」は床に倒れていた。
ぶつかった衝撃のためか棚からは商品が散乱し、数人の客が小動物のように
目を丸く指せレジをみていた。
そして「優子」の連れの男性が、駆け寄って「優子」を抱きかかえた。

僕は何が起きたのかわからず、「優子」を見下ろしていた。拳を握り締めて。

改めて思い出す。
僕は2日間留置所にいた。
両親を呼ぶのを拒否したからだ。
結局「優子」と僕の接点は僕の妄想だったらしい。
本当は僕にだってわかっていた。

警官からは何度も何故こんなことをしたのかを追求された。

僕は死んだ貝のように硬く口を閉ざし何も答えなかった。

僕がした女性に対する悪戯は何も生み出すこともなく、僕の淡い恋を打ち消した。
百合には二度と会えないだろう。
今はただ、失意のどん底にいた。

もしも、百合と話すことができたら聞きたい。そして言いたい。
百合の好奇心には応えられたのかと何故、僕を煽ったのかと。

そして現実を脱線してしまった僕を、両親の哀れむような漆黒の瞳の
軽蔑する視線が包みただ項垂れた。

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