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----メルマガ(オリジナル小説)「郵便物」の部屋----
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過去の作品
視線
視線の前章となる作品です。
こちらを読んで視線を読むとちょっと違った読み方できると思います
 

郵便物

女性の一人暮らしは何かと怖いことが多い。

ただ、暗い夜道を歩いているだけでも怖いことが多いのに、自宅周辺で事件でも起きた日 には、本気で引っ越そうと考えたりするものだ。

もちろん、事件の程度にもよるが・・・ 。

女性の一人暮らしで身を守る上で郵便物というのは、一番やっかいだったりする。
盗まれて中身を見られるのも嫌だが、変なものが送られてきたりしても最悪だ。
できるだけ、郵便受けには施錠などをして危険を回避して頂きたい。
自分だけはなんて通用しない日がくるとも限らないからだ。

だけど・・・やはり気をつけていても事件は起こる。
優子は時間の不規則なシフト制の会社に勤めていた31歳の普通のOLだ。
親元を離れ早5年。
彼氏とは8ヶ月前に別れ、それ以来特に親しく付き合っている人はいない。

その日は遅番でつかれきった体で家路を急いでいた。
駅から10分程歩くと自宅のワンルームマンション。
少し郊外にあるため、駅からは近くても少し歩くと街頭だけの灯りしかなく、少し寂しい ときもあった。 特に、今日のような遅番の日は。

優子は、駅の近くのコンビニにより、最近ややぽっちゃりした自分を戒めるため、
おにぎ り1個だけを買いマンションに向かって歩き始めた。 携帯をチェックしながら。
今日はメールは一件もない。 時間は9時を少し回っていた。
俯きがちに歩いているとすぐに自宅が見えた。 ありふれた帰宅だった。
家に近づくにつれ、マンションの玄関がいつも少し違って見えた。

ガラスのドアの前に新聞紙の切れ端が濡れたまま放置されていたのだ。
夕刊を一誌千切ったくらいはあった。 ばら撒かれているという感じでもないのだが、
いつもはきれいな場所だけに気味が悪い。

そして、何のためにという疑問もある。濡れている理由もわからない。
「管理人さん何してるのかしら」少し腹立たしさを覚えた。
しかし、明日にはきれいになってる。と、 さほど印象にも残らず、
優子はオートロックの暗証番号を押して中に入り郵便物を見た。

「何これ??」愕然とした。
ピザのチラシと通販のダイレクトメールたった2通の郵便物が水浸しなのだ。

水浸しの郵便物の前に優子は、一瞬愕然とした。
そして我に返るとすばやくおにぎりを取り出し、
袋を手袋代わりにして郵便物を取り出した。
素手を躊躇したのは、それが水なのか違う液体なのか得体の知れなかったためだ。
そして、口を縛ると郵便受けの下の小型のダストボックスに投げ入れた。

エレベーターの中でも憤りと不安でイライラがだんだん増していた。
急いで部屋に入るとチェーンと鍵を掛け鞄を投げるように置いた。
「なんなの??」「嫌がらせ?」「それとも雨?」
誰かが間違えて、郵便受け付近を掃除したのかもしれない・・・。
そう思い立ったとき、他の住人の郵便は無事だったのかが気になった。
もし、優子だけが被害者だとしたら心当たりが全く無い。
ここ最近、誰かと揉めた事も恨みを買った事も全く思い当たらない。

『誰かと話したい』と一番近所に住んでいる
8ヶ月前に別れた智裕に電話を掛けてみようと、携帯を取り発信を押した。
やがて2コールなるかならないかで「もしもし?」と聞き覚えのある智裕の声。

「もしもし、優子です。智裕?」「ああ、どうしたの珍しいね。携帯に?」
「うん、ちょっと相談っていうか・・・嫌なことがあったもんだから・・」
「え?会社で?」と智裕は、少し声を張った。「ううん、マンションで・・」
「優子の?どうしたの?ストーカーとか?」心配そうな声。
「じゃないと思うけど、郵便受けが何故か水浸しで、郵便物も濡れてて・・・」
そういいながら、電話掛けたことを少し後悔した。
電話の発信を押すまでは確かに気味が悪かったし、誰でもいいから男の人と話して安心し
たいという気持ちに駆られていた。
だけど、実際伝えてみると特に取り立てて事件といった感じでも無い気がしたのだ。
「そう、今日初めてなの?そんなことされるの?」
智裕はやはり、なーんだといった拍子抜けした感じでトーンを落とした。
「うん、ちょっと気味が悪くって急にごめんね・・・・。」
「まあ、気持ちのいいもんじゃないよな。そうだなー、明日管理人とかにでも言ってみた
ら?もしかして住人なんて事もあるし・・・。」
「そうする。ごめんね、こんなことで電話して」心から思った・・・。
「いや、別に暇だったし。そういえば明日シフト遅番?」
「うん、しばらくは・・えみちゃんとみかさんが早番を希望してて」
「そうか、管理室はシフトじゃないから楽だよ。希望出したらどう?」
「うん、考えとく。ありがとう」
「まあ、なんかあったらいつでも電話しろよ。暇だしさ。」
「うん、わかった。お休み」「おう、お休み。あんまり気にすんなよ。」
智裕と電話で話すのは久しぶりだった。同じ会社のだからたまに挨拶することはあった
が。もしかして、未練があると思われたかしら・・・。
郵便受けのことがまだ気になっていたのだが、智裕に電話した軽はずみな臆病さを少し反
省して就寝した。

翌日、管理人宛てのメモを管理人室の郵便受けに入れ出勤した。
内容は「昨日郵便受けが水浸しにされて大変不快でした。玄関にも新聞紙が散らかってい
ます。不審者がいるかもしれません。」とだけ書いた。

そして、夜9時頃優子はまたコンビニにいた。
買い物カゴにざるそば、お茶とパンを。
そして、だらだらと雑誌コーナーの前で立ち止まった瞬間、携帯のメール音が鳴った。
ディスプレイには、登録されていないアドレス。
メッセージを開くとスーと血の気が引き、優子は目を見張った。
『早く帰れ!!お前のこと知ってるんだぞ!!!!』
メッセージは明らかに苛立ちを含んでいた・・・。

優子は周囲を見渡した。まだ夜の9時だというのに店内は優子以外の客の姿も、
しかも店員の姿さえも見当たらなかった。

急いで買おうとした商品を元に戻し、走って店をでた。
全力疾走で3分。マンション前まで到着すると昨日のような新聞の散らかりは無かった。
すばやく暗証番号を押し、中に入ると郵便受けを見つめた。
「今日ももし、何かされてたら・・・」嫌な予感が頭を過ぎる。
恐る恐る中を覗くと、白い封筒が1通。と、やけに膨らんだ厚めの茶色い袋。

手に取ることを躊躇した。昨日の郵便物のこともある。
しかも、今日は変なメールまで。
絶対何かあるはず。覚悟を決めて白い封筒を手に取った。
もし、おかしなことが書かれてたら・・・。
部屋に帰って読む気がしないためその場で開けることにした。
切手の貼っていない白い封筒には斉藤優子様とだけ書かれていた。
ゆっくりと中の便箋をとりだした。
そして、その一行目で安心した。
「昨日は郵便物が濡れていたということでしたが、今マンションの住人に聞き込みを行っ
ています。
結果は後日お知らせいたします。もしも、被害者が斉藤様だけの場合は、
被害届けを提出されたほうがよろしいかと存じます。マンションの管理体制も強化してい
きますので、
また何かございましたらその時もお知らせ下さい。   管理人 對馬」
胸を撫で下ろし、茶色い袋を手に取った。かすかに湿っている。
「何かお詫びのものとか?」そう思って中をみると、蛆の湧いた生ごみが袋いっぱいに
入っているではないか。
優子は超音波のような悲鳴を上げた。

明らかに嫌がらせだ。
そのままその茶色い紙袋を、郵便受け下のゴミ箱へ
投げ捨てると逃げるように部屋に戻った。
昨日まではもしかしたら気にしすぎなのかもと思っていたが、今日で確信を持てた。
私に対する悪質な悪戯。しかも、アドレスまで知ってるなんて。
携帯を取り出し、送り主を確認した。
捨てアドだろうか。ホットメールのアドだった。

何か恨まれる覚えはない。
職場でも特にトラブルを起こしたこともない。
優子の部署は確かに人が多い。主任になっている優子を妬む人間?
まさか・・・。偉そうにした覚えも誰かを最近中傷したことも罵ったこともない。
シフトだって、他の子を優先させている。
職場ではないはずだ。
昔の男関係?でも、智裕とも別れたのはずっと前のはず。
電話でも普通に話しできる間だし、変な分かれ方などしていない。
それに昨日も電話で話した。
他に昔の彼氏・・・。
思い出してみても、彼氏と呼べるような親密な関係はごく少数で、
奥手な優子は男女関係では受身。別れ話で縺れたなんてことは一度も無く、
恥ずかしいことに自然消滅がほとんどだった。
恨みを買うことも特に無く、平凡に目立たぬよう暮らしてきた。
なのに何故?
それから毎日のように郵便受けには雑巾や生ごみ等が入っていた。
眠れぬ日々が続き、精神は尖っていった。
しかし、朝はやってくる。

最初の嫌がらせから2週間が経った頃私の精神状態は極限まできていた。
管理人は隙をつかれると面倒そうな顔で告げたきり、何の対処もない。
まるで全て私が悪いみたいに・・・。

ピリリリ・・・携帯のメールが入った。
その音は登録していない相手からの着信だった。
思わずビクと反応し、強張る・・・。確認するのに躊躇した。
あのアドレスは拒否にしてある・・。
でも、やはり郵便受けの犯人に間違いなかった。
「これ以上俺に付きまとったらこんなもんじゃすまないからな」
アドレスは前のと違うが同じホットメールアドレス。
意味がわからなかった。人違いで嫌がらせを受けているのだろうか?
でも、それはおかしい・・・・。住所やメルアドを同時に人違いするのだろうか?
それとも優子の名前や居場所を語って誰かが他の人に嫌がらせしているのか?
じゃあ、そ れは誰?
無限のループのように最初に戻って心当たりを探し始めるが答えはでない。
そして携帯の電話が鳴った。智裕だった。
「もしもし、俺だけど、今大丈夫?」
「うん、どうかした?」知ってる人と今会話できるだけで少し安心できた。
「昨日さ、何か嫌がらせ受けてるかも?みたいなこと言ってただろ?気になって」
「ありがとう。心配してくれて。」心から感謝した。
「その後、何かあった?それとも気のせいだった?」
「気のせいじゃないみたい。意味のわからないメールが2通と、
郵便受けに生ごみが入ってた。」
智弘は驚いたように「マジかよ。悪質じゃん。メールもそいつのなのか?」
と強い口調で言った。
「わからないけど、多分同一人物だと思う。それぽい内容の事書いてあるから。」
「大丈夫なのか?警察に行った方がいいんじゃないか。」
「取り合ってくれないんじゃない?郵便受けの悪戯とメールくらいでは・・・」
そう、警察は動いてくれないだろう。犯人の目星もないし。
「被害届けくらいはだそう。ストーカーかもしれないじゃないか。」
「うん、考えてみる。ありがとう。忙しいのに・・・」
「別に大したことじゃないよ。あと、そいつのアド、俺に教えてくれないか?」
「どうして?」「返信してみる。・・・警察に被害届け出しましたみたいな。」
智弘は真面目な声だった。脅すつもりなのだ。
「やめて、酷くなったら困る。」心底怖かった。
犯人を煽ってこれ以上のことをされたら。
「でも、このまま続くかもしれないぜ。」
確かに智裕の言うとおりだ。返信してもしなくてもこのまま悪戯は明日もあるかもしれな
い。
原因がわからない限り。
だけど、逆上して悪戯の範囲を超えてきたらどうすればいいんだろう。
「明日まで様子をみる。もし、続くようなら警察も行くし・・返信もする。」
「わかった。何かあったら連絡くれよ。」
「あ、そういえば智裕。相手のメルアド・・・多分ホットメールだから捨てアドだと思
う。」
「うーん、そうか変えられる可能性も高いな・・・。相手も特定しにくいし。」
「うん。」智弘の言うとおりだ。
「でもさ、PCのメールって携帯にこないようにできたよな、迷惑メール対策で。」
「あーそういえば。」毎月来る請求書に書いてあったことを私も思い出した。
「やっておけよ。メールなんて来ないほうがいいだろ」
「うん、やっとく。ありがとうね。本当に」確かに、来ないにこしたことはない。
「何かあったら連絡してこいよ。あんまり気にしないようにな。」諭すような優しい声
だった。
「わかった。」
そういって電話を切ると部屋に戻ってきたあの動悸は少し治まっていた。
が、もしもこのまま続くようなら・・・。

犯人は誰なのだろうか?
明日出勤すれば休みだし、やはり明日まで様子を見ておこう。
憂鬱な気持ちのまま横になった。
明日という日が最悪の日になることを知らずに・・・・。

その日もいつものように朝の出勤間際、
コンビニに立ち寄り朝ごはんを買って会社に向かった。
『今日こそは何もありませんように・・・。』
今日も仕事中もそればかり考え、心はここにあらずであった。
これまでは帰宅したくてたまらなかったのに家に帰るのが怖い。

帰り道、不安を抱えたままいつものようにコンビニに立ち寄り、
時間をかけて店内を見て回った。
『帰りたくない。』
コンビニの明かりと人の気配に安心感を覚え、
その気持ちが帰宅を遠ざけコンビニに居場所を留めていたのかもしれない。
でもこのまま帰らない訳にも行かず、足取り重くマンションへと向かった。

郵便受けをみるのか・・・。
本当のところ郵便物なんて、毎日来るものではない。
ダイレクトメールかチラシ、そして請求書くらいだ。
それでもやはり気になり、恐る恐る郵便受けを開けた。
チラシが一枚折り曲げられて入っているだけだった。
深く息を吸い込み、安堵した。
チラシを掴んで取り出そうとした瞬間、指先に神経が集中した。
ぐにゃとした手触りがして思わずチラシを落した。
折り曲げられたチラシの内側からゴキブリの死骸が転げ出て折り目が開き、
白い裏面に大きく書かれた手書きの言葉が見えた。
A4サイズの紙一面に、”死ね”赤いサインペンで書きなぐられた文字。

何もかもそのままに急いでエレベーターに駆け込み、涙を堪えた。
止まらない嫌がらせ、誰かもわからない恐怖で涙は止まらなかった。

部屋に入りしばらく泣き伏せると、
自宅の電話機(留守が点滅しているのに気が付いた。

きっと犯人だろう。
泣き尽くしたからだろうか、不思議と冷静に判断できた。
母も最近は携帯に電話してくる。
はっきり言って固定電話は無用の長物と化していた。
最近、受話器を上げたのは2週間前の営業の電話くらい。
今の優子には留守電を聞く気力は無かった。

"死ね"悪意を込めるには一番効果のある言葉。
それが自分宛てに投げ込まれていたことがゴキブリの死骸なんかより余程嫌だった。
8年間の一人暮らしの中、今までご近所トラブルはもちろん、
何かの災難にさえあったことがない。
無いように生きてきた。
多少の事はストレスになろうと我慢してきた。

だからこそ、この悪戯には耐えられなくなっていた。
一人でいるのは耐えられず、無意識に智裕に電話をしていた。
智裕は10分程で優子の部屋へ訪れた。
「ごめん、急に・・・」
智裕は少しヤツレ虚ろな目をした優子に驚いたが、それを顔には出さなかった。
「別に気にするなよ。ビール買ってきたし。さっきまでゲームしててさ。
しかもクリアーしたやつ。」
屈託のない笑顔で優子を励まそうと、智裕は気を使っているのだろう。
会社では部署が違い階も異なるため、ほとんど顔を合わすことがない。
久しぶりの再会と言ってもいいほどだった。
しばらくの沈黙の後、「電話で言ってた留守電まだ聞いてないの?」と切り出した。
「うん、智裕が来てから・・・と思って」
「俺が聞いても大丈夫?」電話機の前に座ると振り返り私を見た。
「平気、多分犯人だと思う」私は目線を合わせず答えた。
そうじゃなくても平気だった、例え犯人でなくても営業の電話くらいだろう。
それに絶対犯人だと確信していたから。
「じゃあ、聞くよ」
点滅している留守の文字の入った丸いボタンを押した。
抑揚の無い女性の声で8件です。と告げられ、3件連続の無言。
朝優子が出勤した直後の時間だった。そのあと、夕方の2件の無言。
そして、さっき帰宅するすぐ前の無言が2件流れたあと、

1秒ほどの間があき、ゆっくりとした口調で悪意が部屋に
立ち込める。
「ふざけるなよ。何のつもりで俺に付きまとうんだ。
お前みたいなあばずれに俺が興味持つとおもってるのか、
今度・・・俺に近づいたらこ・ろ・す。」
声を変えてるつもりだろうか重低音でもわかる若い男の声。
その発せられた言葉の一つ一つに重みを乗せている話方だった。

その声を最後に電話機はピーと音を立てた。
さずがに男の智裕も青ざめていた。
「わかる?こいつの声?」私はただクビをふった。
言葉がでなかった。
そこにいる言っている意味や悪意と声、何もかも心当たりはなかった。
「変質者だろうな」智裕は吐き捨てるようにいった。
そうだと思う。だけど・・・そう決め付けても何の解決にもならない。
「気にするな。とは言えないけど・・・。
犯人のことわからないか?最近不信なやつ見たとか・・」
もう一度クビを振る。
二人に沈黙が流れる。重苦しい空気。
重圧を押しのけるように、突然智裕は笑顔を見せ、
「明日は俺も有給とってどこか行こうか?」
優しい智裕はなんとか元気付けようとしてくれる。
「ううん、迷惑だし・・・」
「別に迷惑ってこともないさ、有給なんて3年以上とってないし。
急ぎで抱えてる仕事もないし。」
「・・・ありがとう。」
「いいって、昔のよしみってやつだし。今日は飲もう!!」
「・・・うん。」
「じゃあ、コンビニいってツマミとか酒買い足しとくか。
俺ビール半ダースしか持ってこなかったし。」
「・・・うん。」一人にはなりたくなかった。
智裕と一緒なら大丈夫だろう。
なんなら、今日は泊まってもらいたい。智裕なら危険はない。

そう安心しかけて、鍵を閉めコンビニへ向かう途中、
不意に何か重大なことに気が付いた。
犯人が優子にしている嫌がらせの時間。
いつも、優子の帰宅時を狙ったように用意されている。
メールにしても仕事中ではない。留守電も最後の声は帰宅時と重なっている。
郵便物だってそうじゃないか・・・?
優子が出入りする時間をどこで知ったというのだろう。
そして・・・犯人は何故私が、"犯人のストーカー"だと思い込んでいるのか・・・。
何か見落としている。そこに犯人に繋がる何かがある。
犯人に私は無意識に接触しているのではないだろうか・・・・。


犯人に近づくには、自分の行動を思い出すのが一番いいのかもしれない。
智裕の後ろをつかず離れず、歩幅を合わせて歩きながら
優子は俯き考えていた。

シフト制の優子の休みは土日と決まってはないし、出勤時間も不規則だ。
しかし、犯人はそれを全てわかっているように思えた。
そんなこと誰ができるのか・・・。
コンビニについてから、酒やつまみを選んでいる智裕の横で
優子は次第に自分と行動が重なる人物の影を踏んでいた。

優子のアドを知ることも、電話番号も、
住所も知ることができる人物なのに、私自身は犯人の男の声に聞き覚えが無い。

帰宅の時間、出勤の時間がわかる人間。
自分の知り合いではない。シフトは急に変わることもあるからだ。
帰り道、どこかによる可能性だってある。
例えばコンビニに立ち寄るように・・・。
そんな気まぐれな行動の全て、それは優子の行動範囲内にいる人間に他ならない。
マンション内の住人?
しかし、都会だからなのか挨拶程度はするが、面識はないし、
もちろん毎日顔は見ない・・・。
しかも両隣は女性のはず。

そう思うが先か、電話が光った。
しかし呼び出しにはならない。
非通知なので拒否されたのだ。
非通知で携帯に接触がある事実だけが確認できた。
智裕に言われてPCからのメールは禁止にしてある。
次に自分に接触するのは自宅の留守電だろうか・・・。

何故か犯人は自分を監視しているような気がした。
突然の外出に対応した接触・・。
これはヒントだった。いや答えなのかもしれない。

そう考えた途端、コンビニのレジを見た。店員はいない。
顔はうろ覚えだが、いつも見る若い男の店員。
前もそうだった。メールがコンビニで入ったとき店員はいなかった。
コンビニ・・・。
そう思う方が早いかレジに目を向けていた優子と奥から出てきた店員の目があった。
不自然に逸らす仕草に違和感を感じた、そして何かを直感した。

もちろん、確信ではないが。
優子は確かめずにいられなかった。
被害妄想呼ばわりされてもいい・・。でも間違ってる気がどうしてもしない。

足早にレジまで歩み寄り、
「違ってたら・・・・」と言いかけるが先か店員が優子をいきなり殴りつけた。
殴打されたことで一瞬意識が遠のき、そのまま後ろに倒れ頭を強打した。
ドン、ガララ・・・静かな店内に明らかに異様な衝撃音がこだました。
店にいた数人の客が一斉に振り返る。
智裕も何事が起きたのかわからず、音がした方を覗き込んだ。
そして、それが優子が倒れた音だと気づいた。
「優子大丈夫か??」
一体何が起きたというのだろうか?
人が目の前で倒れているのに、
店員は倒れた優子を高揚した顔で見下ろしていた。
智裕は急いで優子の肩に手をかけ倒れた原因を一瞬で理解した。
白い頬に赤い拳のあとがくっきりとついていた。
頭からは少しづつ血液が流れている。
智裕はカッとなった。そして携帯を取り出しながら、
ただ無表情に見つめるだけの店員に近づいた・・・。
優子は消えかかった薄い意識の中、遠くから智裕と店員の怒鳴りあう声が聞こえた。

そこは病室だった。
事件から気がつくと半日も眠っていたらしい。
翌日の10時ごろ、智裕は私が目覚めるとほぼ同時に入ってきた。
笑顔を作っていたが寝てないのか少しぼーっとしているようだった。
罪悪感が襲う、私のせいで迷惑かけたんだ。
智裕は私が倒れた後の話をしてくれた。そして、警察に出向くよう伝えてくれた。

入院生活は約2日程で、その日のうちに被害届けを提出した。
そして、全ては終わった。

コンビニの店員の彼は国立の大学生とのことだった。
彼はシフト制の私と偶然にも全く逆のシフトで働いていたらしい。
私がコンビニに行くたび彼は出勤だった。
毎日顔を合わせていると、段々私が彼に会いにきてる思い込んだらしい。
最初は気があるのかなぐらい程度の勘違いから
全くその気を見せない私が彼のストーカー的存在に思え、
だんだん疎ましく思うようになったようだ。

この辺はどうかしてると思う。
そのうち彼は、私につきまとわれているという強迫観念に縛られ、
私がコンビニで支払っていた電話料金やら携帯代の明細、
アンケート等から個人情報を拾い集め始めた。
そうして彼からの攻撃が始まったというわけだ。
ただ、毎日通勤途中に立ち寄るただの客なのに。

最初は驚愕したが、やけに反省する自分もいた。
冷蔵庫や銀行代わりに毎日のようにコンビニに通い続けた自分の生活。

いや、コンビニが怖いのではないと考え直した。
誰だって被害者に成り得るのかもしれない。
だって毎日のようにやってくる郵便物はどこから住所を探してくるのだろう。
誰が、私のことを知っているというのだろう。

個人情報なんて無いのと同じだ。

考えるのをやめたとき、ふと智裕に感謝した。
今度奢ってあげよう。彼にはずいぶんお世話になった感謝してる。
お互いに恋人には戻れない壁ができても、彼は優しい私の友人だ。
私は、そう思ってまた携帯を取り出した。

 

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